交流とインピーダンス ― 無効電力と力率
前回の記事で出てきた「インピーダンス」を入り口に、交流ならではの世界へ進みます。コイルとコンデンサ、無効電力、力率、そして力率改善まで。文章だけでは掴みにくい部分は、ページ内の動く図を実際に触りながら読むと、ベクトルと波形のつながりが見えてきます。なお、ここで扱う考え方は電圧の大小に関わらず、低圧でも高圧でも共通です。
1. インピーダンスとリアクタンス
交流では、抵抗だけでなくコイルやコンデンサも電流の流れにくさに関わってきます。用語が紛らわしいので、まず階層で整理します。
| 量 | 何の性質か | 単位 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 抵抗 R | 抵抗器 | Ω | 熱を出す流れにくさ |
| インダクタンス L | コイル | H | 電流変化に逆らう力 |
| 静電容量 C | コンデンサ | F | 電荷を蓄える力 |
| リアクタンス X | LやCが交流で示す | Ω | 熱を出さない流れにくさ |
| インピーダンス Z | 全部の合計 | Ω | 交流の総合的な流れにくさ |
L と C は「部品の素の能力」、リアクタンス X はそれが交流で示す流れにくさ(XL=2πfL、XC=1/2πfC。f は電源の周波数、π は円周率)、インピーダンス Z は抵抗とリアクタンスの総合です。
Z(インピーダンス) = √( R² + X² )
純抵抗負荷なら Z=R ですが、モーターや配線では Z(抵抗とリアクタンスを合わせたもの)で考えます。
2. コイルとコンデンサ ― 位相のズレ
抵抗では電圧と電流が同じタイミングで上下します(同相)。ところがコイルとコンデンサでは、電流の波が電圧からズレます。このズレの角度を、以降「θ(シータ)」と呼びます。交流の1周期は360°なので、90°は4分の1周期ぶんのズレにあたります。
- コイル:電流が電圧より90°遅れる(電流が急に変化するのを嫌う性質があるため、電圧の動きに電流が遅れてついていく)
- コンデンサ:電流が電圧より90°進む(電圧が変化する瞬間に大きく電流が流れるため、電圧より先に電流が動く)
下の図で負荷を切り替えてみてください。左の回転ベクトルが、そのまま右の波形を描いています。「L + C」では、遅れと進みが正反対を向くため合成が打ち消されます。
3. 有効電力と無効電力
90°ズレた電流は、流れているのに仕事をしていません。電圧と電流が同じ向き(同符号)の瞬間は電力を消費し、逆を向く(逆符号の)瞬間は電源に返しています。90°ズレると、この消費と返却がちょうど同量になり、差し引きゼロになります。これが無効電流です。電圧と同じ向きの成分だけが有効電流として実際に消費されます。
下の図で位相差θを動かすと、消費(緑)と返却(紫)の量が変わります。黄色い線が平均=有効電力です。θ=90°にすると緑と紫が同量になり、平均がゼロ=全部が無効になります。
4. 三角関数 sin・cos・tan
位相のズレを数字にすると、三角関数が出てきます。出発点は直角三角形の辺の比です(sinθ=高さ÷斜辺、cosθ=底辺÷斜辺、tanθ=高さ÷底辺)。
そして「斜辺を1にした直角三角形」が単位円です。斜辺が1なら割り算が消えて、点の縦=sin、横=cos になります。点が回ると縦(sin)が上下して波になる ― 交流が発電機の回転からsin波で生まれるのは、これが理由です。
5. 電力の三角形と力率
有効・無効・皮相の関係は、そのまま直角三角形になります。これが電力の三角形です。
- 有効電力 P(横)=実際に使う分
- 無効電力 Q(縦)=往復するだけの分
- 皮相電力 S(斜辺)=見かけの全部
cosθ=P/S が力率、sinθ=Q/S、tanθ=Q/P です。角度θが小さい(三角形が寝ている)ほど力率は1に近く、無効が少ない=良い状態になります。
たとえば100kWの負荷で力率を0.8から0.95へ改善する場合、必要なコンデンサ容量は約42kvarと計算できます(無効電力を約75kvarから約33kvarへ減らす差のぶん)。この計算でも、これまで見てきた三角関数(角度から辺の比を出す考え方)が裏で使われています。
6. 力率改善 ― 無効電流を打ち消す
無効電流は仕事をしないのに、電線やトランスを通って流れ、設備の容量を食い、電線の発熱による損失を生み、電気代を上げます。そこで、コイル(遅れ)に対してコンデンサ(進み)を入れ、互いに正反対を向く無効分を打ち消すのが力率改善です。
対象になるのは動力(モーター):力率改善が問題になるのは、主にモーターなどの誘導性負荷、つまり動力です。白熱電球やヒーターのような抵抗負荷(電灯)は、電圧と電流がズレず力率がほぼ1なので、力率改善の対象にはなりません。
下の図で、コイルLとコンデンサCの長さを別々に動かしてみてください。長さを揃えると無効電流(黄)がゼロになります。コイル(遅れ)が優勢な状態から、コンデンサ(進み)を増やしていくと無効電流が縮んでいきます ― これが、力率改善で進相コンデンサを入れたときの動きそのものです。
7. まとめ
前回の基礎編から、ここまで一本の線でつながりました。
- 交流の流れにくさはインピーダンス Z=√(R²+X²) で表される
- コイルは電流が90°遅れ、コンデンサは90°進む。90°ズレた電流は仕事をしない無効電流になる
- 電圧と同相の成分が有効電力(cosθ)、ズレた成分が無効電力(sinθ)
- 有効・無効・皮相は電力の三角形になり、力率=cosθ=P/S
- 力率改善は、コイルとコンデンサの無効分を打ち消して、無駄な電流を減らす作業
押さえどころは「cos=使える割合(力率)、sin=ムダな割合(無効)、Z=√(R²+X²)、ベクトルで合成」。この道具立てがあれば、交流まわりの計算はたいてい同じ直角三角形に帰着します。現場で触っている設備の裏側で、この三角形がずっと働いていた ― そう気づくと、力率改善の計算もぐっと身近になります。
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